第9回 コスメ川柳「コスメと言い訳」受賞作品発表!

令和最初の開催となった第9回のコスメ川柳。
「言い訳」をテーマに作品を募集し、 応募総数は過去最高の641句にも及びました。
たくさんのご投稿、誠にありがとうございました! 前回に引き続き、川柳作家のやすみりえ先生を審査員にお招きし、プロの目線から公平な審査を行いました。その結果、優秀賞には同じ方からの投稿が2作品入選と波乱の展開に!?
受賞作品の発表と併せて、やすみ先生からの各作品への講評と、特別インタビューをご覧ください!
※受賞者の皆様には個別にメールをお送りいたします。

川柳作家 やすみりえ

川柳作家やすみ りえ 先生

兵庫県神戸市出身。大学卒業後に本格的に川柳の道へ。恋を詠んだ作品が幅広い世代から共感され、現在多数の公募川柳コンテストの選・監修を務める。テレビ等での川柳コーナー・各地で川柳ワークショップの開催など、句作りをとおして言葉の魅力を伝える活動も。句集に「召しませ、川柳」「ハッピーエンドにさせてくれない神様ね」(新葉館出版)等。全日本川柳協会会員。文化庁文化審議会委員。

最優秀賞

1選

大量のメイク道具でワンチーム

やすみ先生による講評2019年の流行語大賞「ワンチーム」。これを「コスメと言い訳」に上手にからめていて、今年度の作品としてパッと印象に残りました。大量のメイク道具全部がそろっていないと自分の顔はできあがらないんだ、一人でも欠けたらできないんだという強い思いが感じられますね。コスメへの愛も感じましたし、楽しくコスメを買いそろえている様子も見えてきました。完成度の高い、いい作品です。

優秀賞

3選

推しコスメ みんなで買えば 好景気

みい 様

やすみ先生:これは、世の中全体を味方につけた句。「推しコスメ」という言葉は女性誌などによく出てくるので、この方は周りのいろんな情報にアンテナを張っているのではないかと思います。みんなで流行りのコスメを買って日本を好景気にしようという、元気な句に仕上がっています。

女には 魔法が要るの いつだって

みい 様

やすみ先生:「コスメ」などの具体的な言葉は入っていないのですが、コスメは女性にとっての魔法、“こうなりたい”という願いを叶えてくれる魔法なんですよね。時には買って失敗することがあるかもしれないけど、自分にぴったりで大喜びすることもある。そんな思いも、この17音のフレーズが表現してくれるなと思いました。

倦怠期 刺激ほしくて 買ったのよ

マスカット 様

やすみ先生:夫や恋人に綺麗だなと改めて思って欲しい、二人の気持ちが盛り上がるようにコスメの力を借りたいという女心が出ていますよね。また、「買ったのよ」という言葉が相手に詰め寄る感じもあって、すごく想像をかきたててくれる一句でした。この句を見た方が五七五の世界をどう想像するのか、それも楽しみです。

入賞

5選

口紅と 違うよこれは グロスです

つぅぶぅ 様

やすみ先生:誰かと会話しているような一句。相手に「なせ同じようなコスメをいっぱい持っているの?」と聞かれたところから、この場面が始まることがわかります。おしゃべり言葉の良さが生かされて、川柳の軽やかさも出ています。”色のついている口紅なのか、ツヤ感を醸すグロスなのか、同じじゃないのよ”という気持ちが伝わりますね。

このために 働いたのよ 今月も

えりちん 様

やすみ先生:自分が一生懸命働いたお給料やバイト代で、好きなものを買う。人に何も文句を言われることはない。そのストレートさがいいですね。ちゃんと「このために働いた」という主張も入っているので、「コスメと言い訳」というテーマにぴったりです。

安かった 枕詞と なりつつも

まるちゃん 様

やすみ先生:コスメを買ったあとに、あまり使っていなくても「安かったからいいんだ」と、自分にも周りにも言い訳しているんですね。「安かった」という言い訳を「枕詞」という知的な言葉と組み合わせて、より言い訳を正当化するという作り方が上手です。この系統の句は多かったんですが、この句は全体を美しくまとめていると思いました。とても共感できる一句。

日によって 合う色違う 肌調子

だからカラバリ必要 様

やすみ先生:年齢を重ねた世代には納得の一句ですね。日によって合う色が違うからいろいろな色をそろえているのよっていうのが、言い訳のひとつ。自分の肌ツヤがその日一番よく見えるものを使いたいという気持ちも表現されていて、私も「わかる!」と思いながら選んだ一つです。川柳を作る上で、この共感性も大切なポイントのひとつなんです。

間違えて 同じの買った ストックです

あゆ 様

やすみ先生:これ、結構あるんですよね! 引き出しを開けてみると「あれ?」。品番を見てみたら「同じだった!」(笑)。でもそれを、自分のストックとして受け止める。同じものを買ってしまうというのは、きっと好きな商品なんだと思いますから、「ストックができたわ」という前向きな姿で言い訳するのがいいですね。日常の一場面が、生き生きと描かれていました。

今回の審査のポイントに加えて、川柳の魅力や川柳を詠む上でのアドバイス、
ご自身も愛好家であるというコスメについてなど、たくさんお話をうかがってまいりました!

言い訳をしながらも、コスメへの愛を感じる作品

――今回は「コスメと言い訳」というテーマでしたが、テーマについてはいかがでしたでしょうか。

やすみ:「コスメ」だけでも幅広く川柳にできるテーマなのですが、それに「言い訳」というとても興味深い言葉がついている。応募してくださったみなさんも、その言葉に惹かれたのかなと思って選考させていただきました。

――応募作品全体の傾向はどうでしたか。

やすみ:そもそもコスメ好きの方が注目してくださっているコンテストなので、内容も具体的なものが多かったですね。口紅とグロスの違い、なんてものもたくさんありました。
みなさん、自分の持っているたくさんのコスメを一度チェックしてから句を作ってくださったんじゃないかなと思うほど、実体験に基づいたものが多い印象でした。
そして、言い訳をしながらもコスメへの愛情が感じられました。コスメは生活の大切な一部。言い訳をして終わりじゃなくて、言い訳しながらも愛用している、自分のコスメの世界を広げていきたいという気持ちが、いろいろな言葉の端々から見えたと思います。

やすみ先生写真その1

――コスメ川柳らしい言葉は。

やすみ:「キラキラコスメ」などが代表的、前向きで華やかな感じですよね。「新作」や「限定品」なんて言葉も、夢がいっぱいで特別感がある。それを言い訳にしながら、次々と欲しくなる気持ちを表現していると思います。「運命の出会い」とか「人気の商品」という言葉も多かったです。
時代かなと思うのは「プチプラ」とか、お手頃感を言い訳にしたもの。「プチプラ」という響きの可愛さも、コスメにあうのかなと思いました。

――選ばれた作品には「今感」がありますね。

やすみ:みなさんが実体験を取り入れて作ったのがわかるし、表情が見えてくる。この句はいくつくらいの方が詠んだのかな…なんて、その人の日常の雰囲気も想像したくなる。それが五七五のおもしろさかなと思います。
川柳って絶対に時代のことを詠まなくてはいけないわけではないし、世の中のことを五七五に絡めるだけではないんです。でも、そういった気配や雰囲気を上手にまとわせると、よりいっそう見る人に共感してもらえると思うので、そのあたりは今後川柳を作る際に意識してただくといいですね。
時代の感覚を取り入れて詠んだ句はちょっと点数が高くつくポイントになることも多いです。

――やすみ先生が共感した言い訳は。

やすみ:「私を代弁してくれていると思ったのは、「間違えて 同じの買った ストックです」
コスメを使って10年、20年…いまや生活の中での大事な小道具ですが、これまでには買って失敗したものもありますよね。私は、気に入ったパッケージが捨てられないんです。眺めているだけで嬉しかったり、香水のボトルなんかはそれ自体にストーリーがある。引き出しがそういうものでいっぱいになっちゃって、片付けられないのが私の反省点です(笑)。

――やすみ先生は、どんな時にコスメを買いたい衝動に駆られますか。

やすみ:季節が変わるようなタイミングや新年の今時期にワンポイント変えてみるのはいいんじゃないかなって思います。気分を変えたい時は、香水やトワレなどの香りのものを。今の気分に合う香りはないかなって売り場にサッと行って選んで、気に入ったらネットでも買っています。

ゆっくり句を作るのは、自分を振り返るいい時間

――やすみ先生は、普段の川柳作りはどのように?

やすみ先生写真その2

やすみ:気になったワードはメモしますね。実は句を作る時に、その作業が一番大事だと思っています。人間は忘れる動物なんで(笑)、その時に「いい」と思った言葉も2、3日経つと忘れてしまうんですよ。あとでいざ句を作ろうと思っても、材料(言葉)がないとできない。だからその材料集めが大切なんです。書き留めるのは、フレーズのこともあるし、単語だけのこともあります。メモする時に、何か形に作り上げてから書き留めようと思うと、めんどくさくなっちゃうので(笑)
印象に残ったひとことだけ書き留めておく。
そしてその書きためた言葉を、自分の気分の乗った時間にまとめて句を作ります。言葉を手軽に書いておいて、時間をかけてゆっくり句を作るんです。

――時間をかけて選んだ言葉には、愛着がわきますね。

やすみ:そうですね。そうしてできた句を、こういうコンテストに出していただくのもいいと思います。
残念ながら入賞しなくても、自分の気持ちを込めたものを外に見せることができたというのは達成感もある。入賞作品と自分の作品を比べて、「実は私の句が一番いいんじゃないか」って思っていただいていいんです(笑)。自分が一生懸命言葉を選んで思い込めて作った句は、ぜひ大事に手元に置いておいてほしいですね。

やすみ先生写真その3

次の運 また次の運 角砂糖

角砂糖は、コーヒーや紅茶に入れるとさっと溶けていく。
その様子に、いい運や悪い運が現れてはさっと消えることを重ねた一句。
スプーンでかき混ぜればお砂糖が溶けるように、
またすっと次の良い運が訪れますように…。

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